辞書の話⑦(辞書を読む)~暗証番号を忘れたら仏教辞典を参照せよ?!

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 クレジットカードの暗証番号、iphoneのパスコード、パソコンの画面ロック解除番号などなど。現代では、様々なサービスを享受するのにパスワード、暗証番号を要求されることが多くなりました。もちろん指紋認証や虹彩認証など暗証番号なしにログインできるUIもたくさん登場したので、暗証番号だけが頼りというわけではありませんが、やはりまだまだ暗証番号は欠かせません。

 さて、暗証番号の「暗証」、意味は一体なんなのでしょうか。広辞苑第七版を調べてみると、

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あん・しょう【暗証】
①教理を研究せず、座禅などの修行だけで悟りを開こうとすること。
②本人であることを証明する、あらかじめ登録しておいた秘密の数字や文字。

と書かれています。私たちが日頃使ってる意味は②ですが、そもそもの意味は①だったんですね。これはほとんど知りませんでした!広辞苑の編集方針から、語義が複数あるものは語源に近いものから順に①②③と表すルールになっていますので、語源に近いのは①になります。さすがの広辞苑ですが広辞苑で紐解ける範囲はここまでなので、この先は専門的辞典を読んでいく旅が始まります。

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 座禅、悟りとあるのですから仏教関連に由来があるはずです。書棚にある、「仏教辞典第二版」(岩波書店)を読んでみましょう。

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暗証 あんしょう
<闇証>とも書く.経論研究を怠り,座禅だけで悟れるとする立場,またそのような誤った悟り,低劣な悟りを批判した言葉.そのような禅者を<暗証の禅師>という.文字にこだわり実習を忘れた教学の徒を<文字もんじの法師>と禅者が評するのに対し,教宗の方から不立文字ふりゅうもんじを主張する禅宗を非難する言葉として用いられた.もと『摩訶止観』巻5に出る.

 「仏教辞典」によれば、お経の研究を深くせずに、座禅していれば悟りを開ける!と主張した禅宗の仏教者のことを指しているんですね。つまりは、データやファクトを十分に検討しロジックを構築しないで、やみくもにマネジメントしたり営業したり実践だけやっていてもだめなんだよ、ということで、現代のビジネスシーンでも同じようなことが言われています。

 もちろん反対側の主張もあるわけで、文献研究、頭だけで戦略を構築しても、実際に打ち手を持って推進していかねば事業は成り立たないのも事実です。この辞典にも「文字にこだわり実習を忘れた教学の徒を<文字もんじの法師>と禅者が評する」とあります。『摩訶止観』(まかしかん)からの話ですので594年頃のこと、今から約1500年前から、今に通ずることが言われていたわけです。

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 仏教の根本が現代のビジネスシーンにまで影響していることが分かった辞書の旅。先の「暗証」の説明を読むと、十分に理解していない言葉がたくさん登場します。「教宗」「不立文字」「摩訶止観」・・・・。一つの言葉を調べてみたら、さらに三つの言葉を知りたくなる。辞書の旅はかくも面白いものです。

 そういえば「止観」ですが、岩波「仏教辞典」で調べてみると、

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止観 しかん
心を外界や乱想に動かされず静止させるsamatha(止)とそれによって正しい智慧をおこし対象を観ずるvipasyana(観)をいい(中略),<止>と<観>とは互いに他を成立させて仏道を完うさせる不離の関係にある.

 つまり「止観」もかみ砕けば、いまビジネスシーンで認められているマインドフルネスや瞑想のこと。自動操縦されない心のあり方、「”今ここ”にただ集中している心のあり方」に繋がっているのです。仏教原理とビジネス、一見すると遥か遠い存在のように思えますが、実は何千年も前からの真理として共通することがたくさんあるのですね。

 そういえば、暗証番号のこと、ストーリーの無い字づらだけの番号はすぐに忘れるものですが、何か自分事化したり、感情の紐づけた番号ならば忘れないのかもしれません。しかし頭の中のストーリーだけでなく行動に紐づけると、暗証番号も記憶に定着しやすくなるかも・・・。「不立文字」であろうとも「文字の法師」であろうとも、論理と実践は背中合わせ、ということなのでしょう。

 最後までお読みいただきありがとうございました。

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