「辞書は引くものでもあり、読むものでもある」と語る人は、案外多いことがわかりました。『そして、僕はOEDを読んだ』のアモン・シェイさん、『フィネガンズ・ウェイク』や『ユリシーズ』などの独特な翻訳を手掛けた柳瀬尚紀さん、三省堂で長きにわたって辞書作りをした鵜澤伸雄さん、皆さん自分の著作の冒頭で「辞書を読む」楽しみを書き記しています。柳瀬さんは『辞書はジョイスフル』『辞書を読む愉楽』と、タイトルがそのものが「辞書を読み楽しむ」本を記しています。
![画像1](https://i0.wp.com/d2l930y2yx77uc.cloudfront.net/production/uploads/images/19694374/picture_pc_ec6c668ded8089855644a597a46ebf19.jpg?w=1256&ssl=1)
『辞書はジョイスフル』は、様々な辞書へのアプローチの仕方、楽しみ方や言葉の発見があり、何度も読み返してしまいます。その中から興味深く、かつ珍しい辞書のお話をご紹介しましょう。「寝ても醒めても語尾砂漠ー逆引き辞典」という一節です。
日本語尾音索引ー現代語篇ー(笠間書院)というのが出たとき、面白そうなので、すぐに買った。岩波国語辞典第二版を逆引きにしたものである。昭和五十三年(一九七八年)九月三十日初版発行。定価七千円。これに飛びついたのは、ときどきエッセイなどで語尾をそろえる遊びをしていたし、翻訳でもそういう遊びが必要になることがあるからだ。
柳瀬さんはエドワード・リアのリメリック集、『ナンセンスの絵本』を翻訳した際に、この逆引き語彙集をとことん使い、とても常人ではまねのできないような面白い、かつ見事な翻訳をしています。英語の原文では、
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この五行のナンセンス詩は、それぞれのセンテンスのオシリの音が韻を踏んでいて「アード、アード、ンド、ンド、アード」といったようにa-a-b-b-aの脚韻がふまれています。それを柳瀬さんは見事に翻訳しました!
![画像3](https://i0.wp.com/d2l930y2yx77uc.cloudfront.net/production/uploads/images/19692296/picture_pc_751d73b34d3dc6bc7e521b6d081a96b7.png?w=1256&ssl=1)
語尾の一音を合わせるだけでなく、二音合わせてくるあたりが、柳瀬さんのすごいところです。興味があるかたは、是非、柳瀬さんが翻訳した「ナンセンスの絵本」を開いてみてください。
![画像4](https://i0.wp.com/d2l930y2yx77uc.cloudfront.net/production/uploads/images/19694481/picture_pc_9e90b0f72a2e4503a25ef954c8de067f.jpg?w=1256&ssl=1)
いったい誰が何の目的で使うのか、すぐには想像できなかった「逆引き辞典」。しかし、とても有益に、かつクリエイティブに使われているのがわかり、俄然手に入れたくなってしまいました。そして、またまた古本屋を巡っていたら、ありました、ありました『逆引き広辞苑』!
![画像5](https://i0.wp.com/d2l930y2yx77uc.cloudfront.net/production/uploads/images/19694097/picture_pc_ac7c5b606e1976466caa11a8eeb81e15.jpg?w=1256&ssl=1)
『広辞苑第四版』を元に作られた『逆引き広辞苑』。私の手元には最新版の『広辞苑第七版』と『広辞苑第五版』の二冊があったので、第五版なら『逆引き広辞苑』と比較的整合性がとれるなー!と思い即購入しました。背表紙側を見ると、これまた、帯の文言に惹かれてしまいました。クロスワード用!確かにですねー。
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![](https://i0.wp.com/www17.a8.net/0.gif?resize=1%2C1&ssl=1)
![画像6](https://i0.wp.com/d2l930y2yx77uc.cloudfront.net/production/uploads/images/19694066/picture_pc_ec4de4a130f4345d828cd44bb63444c0.jpg?w=1256&ssl=1)
柳瀬さんも、『辞書はジョイスフル』のなかで「逆引き広辞苑」の面白さに言及しています。
しかし、二十万を越える広辞苑の収録項目が逆順に並ぶのをながめると、よくもまあ、こんなに日本語の語彙はあるものだと、そのことに改めて驚く。そして項目のみの配列なので、自分のボキャブラリーの乏しさを知るには類のない問題集になっている。
『辞書はジョイスフル』の中でも引用されているところを、ここでも少し引用してみましょう。この辞書の最後の語である「わんわん」からさかのぼってみます。
![画像7](https://i0.wp.com/d2l930y2yx77uc.cloudfront.net/production/uploads/images/19693507/picture_pc_8aa8b10d7ee9bc9db676e93be556ea03.png?w=1256&ssl=1)
「ホールインワン」や地名の湾、「塗椀」あたりはわかりますが、「御平椀」ってどんなお椀?「沈腕」ってどんな意味?「ラワン」はあのラワン材の「ラワン」?!などと考えていると、あっという間に時が過ぎてしまいます。ちなみに「広辞苑第五版」で「ちんわん【枕腕】」を調べてみたら、「執筆法の一。左手を平らに机上に伏せ、筆を執る右手をその上にのせて文字を書くこと。多く細字を書くときに用いる。」とありました(㊦参照)。
![画像8](https://i0.wp.com/d2l930y2yx77uc.cloudfront.net/production/uploads/images/19697889/picture_pc_e11fc6750a9dbfd9e2dd75d673bf754e.jpg?w=1256&ssl=1)
辞書から辞書へと広がる世界。いやいや、楽しいものです。
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